自社の搬送用途に合わせてAMRを開発したい。そう考えたとき、機体やセンサーの選定のほかにも、走行制御をどう構築するかなど、考えなければならないことがいっぱいですね。

ほかにも自己位置推定や経路計画、駆動系の制御、周辺設備との通信など、結構難易度が高い。既存のソフトウェアやコントローラーを活用する場合も、任せられる機能と自社で実装する部分を整理したいところです。

技術を調べるほど選択肢が増えて、かえって決めにくくなることもあると思います。そんなときは、AMRを使ってどんな作業を実現したいのかに立ち返ってみてはいかがでしょう。この記事では、設備への荷物の受け渡しなどを例に、開発で迷いやすい点を取り上げます。

1. AMRとAGVの違いと自律走行のメリット

搬送の自動化を調べていると、AMRとAGVの両方が候補に出てくると思います。ここでは、決められた経路に沿うAGVと、周囲の状況に応じて経路を選ぶAMRという一般的な比較で整理します。呼び方だけでは機能を判断できないため、実際の製品や構成では誘導方式と経路変更の機能を確かめたいところです。

AGV:決めた経路を走る

磁気テープなどの誘導体に沿って走る方式が代表例です。同じ搬送経路を繰り返し使う用途に適しています。

AMR:状況に応じて経路を選ぶ

地図とセンサー情報などを使って位置や周囲を把握し、目的地までの経路を判断します。搬送先や経路の変更に対応できる点が特徴です。

例えば生産ラインの配置を変える場合、磁気テープ式では経路に合わせてテープの変更が必要です。AMRなら地図や走行設定を変更する方法が取れますが、新しい通路幅や停止位置で使えるかは改めて確認が必要です。

障害物を避ける機能も、迂回できる空間や経路があってこそ役立ちます。複数台で運用するなら、狭い通路でのすれ違いや待機の扱いも検討点です。どこまで経路を柔軟に変えたいかを考えると、自社の搬送に自律走行を使うメリットが見えてきます。

2. 搬送用途と使用環境の整理

機器の仕様を見比べていても、要素が多すぎて何を基準に選べばよいか迷うかもしれません。運ぶもの自体の大きさや重さ、それ以外にも受け渡し方をどうするかなどによって事情が大きく変わるためです。まずは「何を、どこへ、どのように運びたいか」を考えることが選定の出発点になります。

例えば、部品を作業者の近くまで運ぶ場合と、設備の受け渡し口に位置を合わせる場合では、求められる停止精度が違います。設備に受け渡すなら、設備側がどの程度の位置ずれを許容できるかの確認が必要です。このように実際の作業条件が分かることで、AMRに求める性能を具体的にできます。停止精度以外にも、仕様を考える際には次のような条件が関わります。

確認項目決めておきたいこと
搬送物と受け渡し重量・寸法、積み方、積み下ろしの方法、受け渡し位置
搬送能力搬送距離、回数、所要時間、停止位置に求める精度
走行環境通路幅、床面や段差、障害物、人や他の車両との動線
業務・設備との連携搬送指示を出す方法、設備との受け渡し手順、完了を知らせる相手
運用条件連続稼働時間、充電のタイミング、操作担当者、異常時の復旧方法

例えば「充電のためにどのくらい止められるか」は、バッテリーの仕様だけでは決められません。現場の生産計画と照らし合わせて、搬送を休める時間帯があるかを知りたいところです。こうした使い方が曖昧なままだと、機器を選ぶ基準も定まりません。

予算や開発期間に収まらない場合も、現場と相談する余地があります。荷物の積み下ろしまで自動化するのか、最初は作業者が担当するのか。任せたい作業の範囲から相談できれば、初期開発に含める機能を絞りやすくなります。

3. 搬送方法に合わせたAMRのタイプ選び

同じ荷物を運ぶ場合でも、台車ごと引くのか、棚を持ち上げるのか、アームで取り出すのかによって機体の構成は変わります。荷物の重量・寸法と搬送経路を踏まえて、代表的な3つの構成を比較してみましょう。

機体タイプ搬送の方法設計で確認したい点
牽引型荷物を載せた台車やトレーラーを連結して引く台車を含めた重量、連結方法、旋回時に台車が通る範囲、後退の必要性
棚搬送・潜り込み型棚や台車の下に入り、持ち上げたり連結したりして運ぶ棚下の空間、脚との干渉、進入位置、持ち上げ・固定の方法、搬送時の安定性
アーム搭載型AMRにロボットアームを載せ、移動先で把持や配置の作業を行う作業位置への合わせ込み、アームの可動範囲、重心の変化、電源容量、走行とアームの動作手順

例えば今ある台車を使いたい場合は、牽引型が候補になります。ただ、AMR本体が曲がれる通路でも、後ろの台車まで通れるかは別の確認です。棚搬送型でも、棚の下に入れる寸法と搬送中の寸法では見る条件が変わります。機体単体に加えて、荷物や台車を含む状態で通れるかを図面上で確かめるところから検討を進められます。

アーム搭載型では、移動先で何をつかみ、どこへ置くかまでが設計の対象です。移動と把持を同時に行うことを前提にせず、走行中・停止中それぞれの動作と安全条件を決める必要があります。

4. AMRの開発に必要な機器と技術

用途を機器の仕様に落とし込むときは、組み合わせた状態で考えるところが難しいですね。荷物を載せられる車体を選んでも、その重さで走行・停止できる駆動系や、稼働時間に見合う電源が必要です。選定する機器と主な確認事項を、役割ごとにまとめました。

機体・駆動系・センサー・電源の構成

分類構成の例選定時の確認事項
機体・搬送機構車体、荷台、受け渡し機構積載物との適合、外形寸法、搬送時の安定性
駆動系モーター、ドライバー、車輪積載時の走行、旋回に必要な空間、速度や停止の制御
計測機器LiDAR、IMU、エンコーダーなど必要な情報を取得できるか、取付位置、使用環境への適合
演算・接続機器制御用コンピューター、通信インターフェース、I/O処理能力、各機器との接続、周辺設備との情報の受け渡し
電源系バッテリー、電源回路、充電機器消費電力、稼働時間、充電方法、機器ごとの電源条件

自律走行に必要なソフトウェアの機能

ハードウェアを選ぶときに関係するのが、その機器を使うソフトウェアです。センサーで周囲の情報を得ても、走行に利用するには位置の推定や経路の計算といった処理が必要になります。自律走行を支える主な機能を分けると、次の4つです。

自己位置推定

機体の現在位置と向きを、センサー情報や地図から推定する機能です。

周囲の環境認識

障害物の位置や走行できる範囲を把握する機能です。この情報が経路計画や走行制御の判断材料になります。

経路計画

現在位置から目的地までの経路を、周囲の状況を踏まえて求める機能です。

走行制御

経路に沿って走るための指令を計算し、駆動系へ伝える機能です。

例えば「設備の前まで移動する」という動作でも、現在地の推定、通れる経路の計算、駆動系への指令がつながって初めて実現します。レーザーセンサーを使って地図作成と自己位置推定を行う「レーザーSLAM」も、その一部を担う技術です。採用したい機能が見つかったら、前後の処理とどう情報をやり取りするかが次の検討点になります。

さらに、設備の前に着いたところで搬送作業が終わるわけではありません。設備が荷物を受け取れる状態かを確かめ、受け渡しの完了を待って次の動作へ移るところまでが一連の仕事です。走行機能に加えて、この設備連携をどこで処理するかも考えたいところです。

5. 設計段階で確認したい安全規格と運用条件

走行や荷役の構成が見えてきたら、人と機体が接近する場面も具体的に考えられます。通路での接触、設備との間への挟まれ、荷物の落下など、用途に応じた危険を洗い出す作業がリスクアセスメントです。その結果を機器選定や制御の設計に反映します。

ISO・JISの適用範囲を確認する

無人搬送車とそのシステムの安全要求事項を扱う規格には、「ISO 3691-4:2023」や「JIS D 6802:2022」があります。機体や用途によって対象範囲が異なるため、採用する規格と版を設計の早い段階で確認したいところです。例えば「ISO 3691-4」は、牽引されるトレーラー自体の安全要求事項を含んでいません。台車やアームを組み合わせる構成では、追加する機器を含めた検討が必要です。

検知・停止の仕組みと現場の条件を合わせる

「JIS D 6802」では、ブレーキ、速度制御、人の検知、非常停止、制御システムの安全関連部などを扱っています。安全機能に求められる信頼性は、規格の要求とリスク評価に基づいて設計する項目です。通路の余裕や人が立ち入る区域も含めて、機体と現場の両方から対策を考える必要があります。

参考:日本産業車両協会「無人搬送車の現状と安全規格等」(厚生労働省掲載PDF、14~21ページ)

改造時の確認と担当範囲を決めておく

後からアームや治具を追加すると、機体の外形や重量、危険が生じる範囲も変わります。変更後のリスク評価や停止動作の確認を誰が担当するか、メーカー・開発側・使用者の間で決めておきたいところです。取り除けないリスクや使用上の制限は、操作する方へ伝わる形で説明書などに残します。

適用する法令や契約上の要求は、使用する国・地域と用途に応じて確認が必要です。規格に基づく評価と合わせて、安全担当者や専門家と確認する範囲を決めておくと、設計や運用の担当が曖昧なまま進むことを防げます。

6. 自社開発と既存技術の使い分け

必要な機能を整理すると、独自に作り込みたい部分と、既存の機能を使えそうな部分が出てくると思います。とはいえ現実的には開発期間や人員が限られるので、自社で作る範囲をどこまでにするかが計画に大きく関わりそうですね。

例えば設備との受け渡しは自社の用途に合わせて開発し、走行に関わる処理には既存のソフトウェアを使う、といった分担はいかがでしょう。下の表は、そんな切り口で制御機能を用意する方法と、それぞれで担当することになる作業を比較したものです。

開発方法選ぶ目的主な開発作業
必要な機能を自社で実装する独自の制御や動作を作り込みたいアルゴリズムやインターフェースの設計、実装、検証、保守
既存ソフトウェアを組み合わせる既存の機能を利用し、自社の機体に合わせて調整したい機能・ライセンスの確認、機器との接続、設定・改修、バージョン管理
機能を統合したコントローラーを使う接続や走行制御をまとめて扱い、個別に実装する範囲を減らしたい対応機器・機能の確認、設定、製品に含まれない機能の開発

既存ソフトウェアを使う場合

経路計画や走行制御には、開発に利用できるソフトウェアが公開されています。目的地までの経路を求めるプログラムが自社の用途に合えば、その計算処理を一から作る工数を減らせるのが利点です。

採用を判断するうえで知りたいのは、そのソフトウェアを自社の機体で動かすまでの作業量です。センサー情報を指定の形式で渡す処理や、計算結果を駆動系への指令に変換する処理を、自社で用意する場合があります。機能があるかと、自社の構成で使えるかを分けて見ておくと、組み込みにかかる工数を見落としにくくなります。

汎用コントローラーを使う場合

接続や調整も含めて個別に開発する負担を減らしたい場合は、移動ロボット用の汎用コントローラーという選択肢もあります。センサーとの通信や走行制御の機能を備え、専用ソフトウェアから操作・設定できるような製品です。汎用コントローラーを採用する場合、開発工数を大きく減らすことが期待できますのでおすすめです。

ただし、設定で実現できる範囲は製品によって異なります。例えば搬送経路は設定できても、設備との受け渡しには追加のプログラムが必要な場合があります。採用を考える際は、コントローラーに任せられる機能と自社で開発する機能をメーカーとすり合わせてみてはいかがでしょう。使用する機器と実現したい動作を伝えることで、追加開発が必要な部分についても具体的に相談できそうです。

機器変更や保守への対応

採用前にメーカーへ聞いておきたいこととして、「後からセンサーを変えたくなったとき、自社で変更できる範囲はどこまでか」も挙げられます。設定変更で済むのか、プログラムの改修やメーカーの対応が必要なのかによって、完成後の保守の進め方も変わるためです。

7. 設計から動作確認までの進め方

機器の候補が決まったら、設備との受け渡しをどう実装するか、もう少し具体的に考えてみましょう。通信がつながること、決めた順序で機器が動くこと、要求した性能を満たすことは、それぞれ確認する内容が違います。

機器の接続方法と動作手順の設計

接続の設計では、機器同士で必要な情報を交換できることが前提になります。例えば両方がCANという通信方式に対応していても、送受信するデータの形式やタイミングまで合うかの確認が必要です。通信方式への対応だけで判断すると、接続後にどんな調整が必要かを見落とす可能性があります。

設備との受け渡しを例にすると、動作の順序は次のように表せます。

  1. AMRが受け渡し位置に到着し、設備へ知らせる。
  2. 設備から準備完了の信号を受け取る。
  3. 荷物を受け渡す。
  4. 受け渡しの完了を確認してから、AMRが移動する。

これは手順のほんの一例なので、実際の設備担当者との打ち合わせでは、「準備完了の信号が来なかったらどうするか」「何をもって受け渡し完了とするか」まで詰めたいところですね。正常時の順序だけでなく、待機や異常時の扱いもプログラムに反映するためには必ずおこないたい部分となります。

試験項目と合否基準の設定

受け渡しの手順どおりに動いても、設備が受け取れる位置に止まれなければ目的を果たせません。ここで基準になるのが、最初に設備側とすり合わせた位置ずれの許容範囲です。

停止位置を測るなら、荷物を載せた場合と載せていない場合を分け、進入方向や速度も記録しておきたいところです。条件が分からないと、調整の前後で結果が違ったときに、その理由を追いにくくなります。ほかの試験でも、次のように条件と結果をセットで残すことが手がかりになります。

検証の例条件と記録する内容
指定位置への停止積載状態、進入方向、速度、測定の基準位置、停止位置のばらつき
設備との受け渡し信号の順序、応答時間、完了判定、応答がない場合の動作
想定した時間内の搬送経路、積み下ろし時間、待機時間を含めた搬送所要時間
連続稼働稼働・充電の条件、停止や異常の記録、復旧に必要な操作

例えば空荷では停止できるのに、積載すると位置がずれるとします。この結果だけで原因は決められませんが、積載時の設定や機体の状態を調べるきっかけにはなります。変更した箇所と再試験の結果を対応付けて残しておけば、どの調整で改善したかを振り返れます。

試作前の機能確認に使える評価キット

ここまで自社で設計した機体の試験を説明してきました。とはいえ試験的にとはいってもどこかのタイミングで各構成機器を購入しないとトライって実現できない、つまり、ちょっと費用的にもリスクを負わなければいけないですよね。そこで、弊社ナ・デックスでは、コントローラーを搭載した小型評価機やPoC(概念実証)キットをご用意しました。汎用コントローラーの対応する機能や操作方法を実機で実際にお試しいただけます。試してみたい動作や評価内容については、お気軽にご相談ください。

ただ、評価機と自社の機体では寸法や重量などが異なるため、評価機での結果をそのまま自社の構想される機体に当てはめられない点にはご注意ください。

実際の使用環境での動作確認

機能ごとの試験で問題がなくても、現場での使われ方によって確認すべきことは増えます。例えば設備側で待ち時間が生じれば、走行時間だけでは搬送全体の所要時間を判断できません。実際の荷物や周辺設備を使った試験が必要になるのは、このような運用上の条件も含めて、想定した搬送を行えるか確かめるためです。

運用時には、開発担当者以外の人が起動・停止や異常からの復旧を行うこともあります。開発側では分かっている操作でも、初めて使う人には戸惑うところがあるかもしれません。実際の操作担当者に手順を試してもらう機会があれば、説明が足りない部分や操作しにくい点も確かめられそうです。

運用前には、設計段階で決めた安全対策が、完成した機体と実際の使用環境で機能するかを評価します。